
縫製士
森 亮二さん( 30代 / 三重 )
Mori & Volkswagen KOMBI
Volkswagen KOMBI(2004年式)
愛車歴:10年 バンライフ歴:17年
2025.07.15
憧れのバスとともに
つながる旅 、広がる仲間
古いものを大事にし、直しながら使い続ける。エプロンやカバンなど、“長く寄り添える道具”を生み出す縫製作家であり、ワーゲンバスと共に旅するバンライファー。そんな森さんのバンライフの相棒「KOMBI」である通称ワーゲンバスは、ずっと探し続けていた特別な一台。その出会いは、ある何気ない土曜の朝のことだった。
「その日、予定が一日ずれていて、ぽっかり時間が空いたんです。日課のように中古車サイトを見ていたら、7年前から探していたバスが、その日に限ってアップされてて。場所は京都。すぐに連絡して、その日のうちに現地で購入を決めました」
ワーゲンバスへの強い憧れは、高校時代にまでさかのぼる。当時大好きだったバンド「Hi-STANDARD」のPVに登場していたワーゲンバスに心を奪われたことがきっかけだった。
「調べたらドラムの人の愛車だと知ったんです。当時僕自身もバンド活動をしていて、自分もドラム担当だったこともあり、自然と憧れが強まったんです。いつか手に入れるつもりで、下取りの高いハイエースに乗りながらお金を貯めてました」
そしてようやく手に入れた憧れのワーゲンバス。とはいえ、森さんが選んだのは、“王道”の本国モデルではなく、「ブラジルバス」と呼ばれるモデル。このモデルは、ドイツ本国で1979年に生産終了後、ブラジルへ設計図が渡り、2004年までブラジルで製造が続いた、日本では希少なクルマ。バス好きの間では“邪道”と呼ばれるこの一台だが、森さんはそこにこそ強く惹かれていた。
「僕は昔から人と同じものじゃなくて、ちょっと外れたものが好きなんです。だから最初から、王道じゃなく“邪道”って言われるこのブラジルバスを探してたんですよ。そこがむしろ面白いし、自分らしい気がして」

今の森さんのバンライフのルーツもまた、バンド活動にある。
「20代の頃もバンド活動を続けていて、当時お金が全くなかったこともありライブに行った地方でよく車中泊をしてたんです。そこで古い銭湯を回るうち、バンド活動をしていない今でも銭湯巡りが半ば趣味のように残って、そのまま車中泊を楽しんでいる感じですね。箱型のクルマにこだわってるのも、その名残かもしれません」
今は、同じバスオーナーの仲間たちとイベントに出店し、各地を巡っている。会場では自作の道具を並べたり、気になるクラフト作家と交流したり。バスをきっかけに、旅先での新たな出会いが次々と生まれている。
「バスをきっかけに、仲間と旅する楽しさや人との交流の機会が増えたと実感しています。イベントに参加すると声をかけてもらえることも増えて、そこから繋がって、また次の土地、次のイベントへ──そんなふうに、輪がどんどん広がっていく感覚がとても心地いいんです」
森さんにとって、ワーゲンバスは移動手段を超えた人とのつながりを広げてくれる“人生の相棒”。バスに乗り始めて10年。森さんの人生の節目節目をともに過ごしている。

使うこと、直すこと。
道具とともに生きる。
「Bus dylan」の屋号のもと、古い足踏みミシンとヴィンテージ生地を使い、オリジナルのエプロンやカバンを制作・販売している森さん。今年、祖父から譲り受けた倉庫をリフォームし、自宅兼工房を構えた。人生の大きな節目となるこの工房の設計には、愛車ワーゲンバスもしっかりと組み込まれている。
「自宅、工房、ガレージがひとつになった家です。この家ではバスが主役。ガレージにすっとバスが入り、そこで道具と過ごす時間が生まれます。暮らしと制作が自然につながっている。“ライフスタイルそのもの”を感じてもらえる、そんな空間を目指しました。ものづくりにちゃんと向き合っていると言える、そんな家にしたかったんです」
森さんのものづくりの大きな特徴は、オーダーメイドへのこだわり。対面でじっくり話しながら、細部まで使い勝手をすり合わせていくことを大切にしている。
「実際に会って話すことで、その人の動きや使い方のクセ、使う場面が見えてきます。ポケットの位置ひとつにも理由があるんです。また、対面で話すことで、思わぬアイデアが出てきたり、自分の思い込みにも気づかされることもあります。だから、一緒にカタチにしていくプロセスが大事。そうやって説得力のある“相棒のような道具”が生まれると思うんです」
使うシーンを思い描くことが、森さんの制作のモチベーションにもなっている。バンライフやキャンプ、仕事現場で使われる姿を想像しながら、道具を手がけている。

そしてもうひとつ、森さんが大切にしているのが、ものを「長く使う」という文化。
「クルマも古いので故障はつきものですが、それでも修理しながら大切に乗り続けています。バスに乗ることも、古いミシンを使うことも同じです。道具は飾るものではなく、使い続けるもの。最近はファストファッションやリサイクル業界の活躍で、“飽きたら買い替える”が主流の世の中に変わってきました。でも、僕はヴィンテージ生地やレザーがエイジングしていく風合いを楽しむ、“長く愛用する”文化が好きなんです。そんな思いを形にしたくて、あえて古い足踏みミシンを使い、エプロンやカバンなど身近な『使う道具』を作るようになりました」
森さんにとって「使う」ことは、道具に命を吹き込むこと。日々の暮らしの中で使い続けることで、道具は初めて“生きた存在”になると感じている。
「道具は本来、使うために生まれてきたもの。でも人は愛着が湧くと、つい飾ったり、しまい込んだりしてしまう。それは本当に愛されているのか、生かされているのか、と考えるんです。僕は“使う。直す。使い続ける。”ことで、その本質を体現したい。だからワーゲンバスも乗り続けているんです。免許を返納するその時まで、乗り続けるつもりです」
森さんの手で生み出されるエプロンやカバンも、古いミシンも、長年乗り続けるワーゲンバスも、すべて「使うこと」で初めて価値を持つ。森さんのものづくりには、そんな確固たる哲学が息づいている。


PICKUP.01
ステアリング
KOMBIの雰囲気に合わせて、ビンテージ感のあるステアリングに。自作で巻き付けたレザーと、真鍮のドアノブを取り付けたこだわりのカスタム。

PICKUP.02
ヴィンテージトタン
天井のトタンは祖父の家の解体で出たヴィンテージ廃材。時間の風合いがバスに馴染み、古いもの同士が呼応する心地よい空間に。

PICKUP.03
ラゲッジスペース
イベント出店時にはショーウィンドウになるラゲッジスペース。仲間たちとのキャンプでは、お酒を並べてバーカウンターに早変わり。

PICKUP.04
ヴィンテージの足踏みミシン
1980年代頃のRICCAR日本製の工業用ミシンをはじめ、Singerのボタンホールミシン、Pegasuのロックミシン、Brotherなどの様々な工業用のヴィンテージミシンを所有。自ら修理しながら、大事に使っている。

PICKUP.05
ヴィンテージエプロン
アメリカで直接仕入れたヴィンテージ生地を使ってリメイクしたエプロン。企業プリントを活かした1点ものの人気シリーズ。